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2009.07.05

文科省などが主導するグローバル30とはなにか(5, 起源、経済財政諮問会議編)
MEXT's 'Global 30', What is this? (5)

 私がこの「グローバル30」を研究し始めた際、公募要領に現れるような表面上の字句と共に、なぜこのようなアイディアを国家として実行に移すこと のなったのかを調査した。いまだもってそれは明白ではないが、経緯は大体明らかになった。そこには、民主主義とか、冷静さとか、合理性とかいった言葉はな かった。

 シリーズ全部を一気に表示したい場合は、右側の「カテゴリー」の「グローバル30(国際化拠点整備事業)」をクリックすればOK。
このシリーズ全体の目次(第1回)

 アイディアを究明するための最初の取っ掛かりとなったのは、「公募要領」のP.2だった。「「経済財政改革の基本方針2008」(平成20年6月27日閣議決定)や「『留学生30万人計画』骨子(平成20年7月29日文部科学省・外務省・法務省・厚生労働省・経済産業省・国土交通省策定)」等を踏まえ、」との一文である。

 しかし、もちろんこれにはベースがあるはずなので、関連するところの中教審のワーキング・グループ、委員会、官邸に設置された教育再生委員会、教育再生懇談会の議事録をひととおり眺めた。それによって、この考え方を支えるものを見つけ出すことができるかもしれない、と考えたのである。 

 残念ながら、それは徒労に終わった。「グローバル30」はほとんど、そういった会議とは無関係に天下り式に降ってきたものだったのである。

 上の赤で書いた2つの文書に至る流れを要約して書くことにする。ただし、必ずしも時間順ではない。

 1) 教育再生会議では、実はこうした(グローバル30の英語コースのような)話はほとんど全く議論されていなかったのだが、第7回(2007年4月23日)会議の際に、突如、経済財政諮問会議、総合科学技術会議、イノベーション25戦略会議、アジア・ゲートウェイ戦略会議、規制改革会議の資料が提出され、関連者が会議に現れる。

 経済財政諮問会議;伊藤隆敏氏、総合開発会議;薬師寺泰蔵氏、イノベーション25戦略会議;黒川清氏、アジア・ゲートウェイ戦略会議;伊藤元重氏、規制改革会議;八田達夫氏。 われらがミスターKも3人いらっしゃいますな。
 そこで、薬師寺氏から、「入試、内外無差別で、英語で実施」「教員の外国人比率を5年で倍増する」「一部の授業は英語にして多くの留学生に魅力ある大学にする。」との発言が飛び出す。
 1-6回では、ほとんど議論らしい議論はなく、数人の委員が英語や国際化について単発的に発言していたのみで、体系だったものとしては野依良治座長が大学院教員(学部ではなく)の国際公募に6回目で触れていたぐらいだった。

 というわけで、伊藤元重氏から「もう皆さんには釈迦に説法でございますけれども、グローバルな視点から、大学教育を考えない国はもうないわけです」といわれても、「美しい国」などについてヨタ話を繰り広げていた教育再生会議のメンバーは、一部(3人、野依氏、中嶋嶺雄氏、川勝平太氏)を除いて全く「国際」とか「英語」とかいったことを考えていなかったので、寝耳に水の話だったろう。伊藤氏は、おそらく、議事録を読んでおらず、一緒に加わったほかのメンバーの見解が極めて自分の見解と似ていたので、再生会議で国際化といった話が取り上げられたものと錯覚したのだ。

2) 教育再生会議の第二次報告(2007年6月1日)に次のような文句が入る。(一部を収録)

「提言2 国際化・多様化を通じ、世界から優秀な学生が集まる大学にする (9月入学の大幅促進、教員の国際公募、英語による授業、国家戦略としての留学生政策、企業・社会との連携)」
 「大学・大学院は、世界水準の卓越した教育研究拠点を形成するため、教員の国際公募、任期制の大幅な拡大などにより、世界トップレベルの教員の採用を促進する。 」
 「大学は、外国人教員比率の増や、女性教員の採用に努める。 」
 「大学は、英語による授業や、英語のみで卒業可能な体系的教育プログラムを拡大する。」

 いやはや、ほとんど全く議論していないことを「報告」として書くことができる神経には脱帽だ。ネットで拾ってきた文字列を「自分のレポート」として堂々と発表できる大学生も脱帽するに違いない。

 後になるが、12月25日の第三次報告には「大学における英語教育を大幅に改善するとともに、外国人教員の採用も進め、英語による授業の大幅増加を目指す。(当面、全授業の30%は英語での授業を目指す)」とある。「30」という数字の源泉はここだろうか?

3) 2007年6月19日の「経済財政改革の基本方針2007」(骨太の方針2007)に、次のような記述が入る。(一部略)

国際化・多様化を通じた大学改革
  教員の国際公募、外国人教員比率の増、英語による授業、国家戦略としての留学生政策を平成 20 年度から推進する。
  文部科学省は、「大学グローバル化プラン」(仮称)を平成 19 年内に策定し、アジアを含めた国際的な大学間の相互連携プログラムを促進する(単位互換、ダブル・ディグリー等)。また、各大学等による国際化に関する評価の充実を平成 20 年度に図る。
  平成 20 年度から、現地での募集・選考体制の強化、渡日前の入学許可、奨学金支給決定を行い、留学生受入れ拡大を図る。日本人学生の短期留学等の機会を拡充する。

4) 2008年の国会施政方針演説として福田康夫首相が「留学生30万人計画」を打ち出す。(2008年1月18日)
http://www.kantei.go.jp/jp/hukudaspeech/2008/01/18housin.html

 一橋大学の横田雅弘氏のグループが、将来の留学生の数などについて委託研究報告を出したのが2007年10月だから、「30万人計画」は福田氏オリジナルなものでは(たぶん)ないだろう。

5) 2007年12月25日から、中教審の大学分科会で「制度・教育部会 留学生ワーキンググループ」が開催される。しかし、これは2回しか開催されず、委員の陣容を増強して2008年2月22日から「留学生特別委員会」として再スタートする。
 しかし、これらにおいても、話の主たる内容はいかに(主にアジアから)留学生を集めて、教育し、「出口」を整備するかであって、大学(学部)における英語コースの設置についてはほとんど全く語られることはなく、極めて散発的な発話に終始した。

6) 2008年5月9日、経済財政諮問会議に「教育の大胆な国際化を」というペーパーが提示される。(http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2008/0509/item5.pdf)。冒頭の方に「グローバル30」という言葉が出てくる。もちろん、提出したのは伊藤隆敏氏、丹羽宇一郎氏、御手洗冨士夫氏、八代尚宏氏の「民間」「議員」の方々。ここでは、学部で英語教育をするかどうかについてはやや不明瞭なところがあるが、大体において現在の「グローバル30」の姿が示される。

7) 2008年5月12日。諮問会議から3日後。中教審留学生特別委員会第6回。この日は、約1年前の「教育再生会議」第7回と酷似している。ここで、実質初めて、学部での英語による教育が議題に取り上げられる。第5回までと異なり、ものすごくたくさんの資料を渡される。(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/020/gijiroku/08051408.htm)ネットで見ることのできる資料だけで24種類である。会議の時間は2時間。資料についての説明があった後、議論に入るが、少ない時間と多い論点で、一体どのような議論が可能だというのか?

 (ついでに言っておくと、この数日後、5月16日に、教育再生懇談会では「合宿審議」という茶番劇が繰り広げられる)

 そこでの議論を引用しよう。これは、取捨選択したものというよりは、悉皆的なものである。長いと思ったら、飛ばしていただきたい。

英語で授業を行うのは良いが、4年間ずっと英語だけで終わっていいのかという、つまり何のために日本に来ているのかというところがある。もちろん英語で学位を取得できることは大事なことだと思うが、飛躍的に増大させる必要があるのかいうことと、入学時に英語の能力があれば十分対応できるような大学としての教育の仕組みを作ることには大いに賛成であるが、特に海外でのリクルーティングを考えたときに、なかなか大学独自では難しいところもあるので、4ページ目の1でリクルーティングという項目があるが、第2パラグラフの3行目で、例えば日本学生支援機構が実施する日本留学試験や日本語能力試験といった既存の試験を積極的に活用しようと言っているが、ある意味では矛盾しており、日本留学試験では英語はなく、日本語能力試験は日本語だけである。つまり、ここで書いていることでは日本語で教育を受けることを前提とした渡日前入試というふうになっており、英語で授業を行うということを考えるのであれば、その仕組みを考えないと困る。

 英語の授業を一番最初に始めたのは東京大学のグループであったが、一方では日本語のサポートはものすごく、もう大変な数の人をリクルートしボランティアとして活用し生活レベルの日本語を徹底的に教えていた。このことからすると、英語で学位を取れるようにするということとその書き分けは少しする必要はあるのではないか。

 先ほどの英語の件であるが、ここにも書いているように、学部は英語で実施しているところは少なく、大学院が多い。したがって、学部学生は原則として日本語教育を中心に教育するということで、ある程度の日本語能力を持った方をリクルートし日本文化の理解してもらい、一方、大学院のは英語による教育を促進するというふうに少し温度差をつけたらいかがかと思う。
ただし、学部学生も英語教育も必要であるので、漸増することは必要であるが、これに向けてはやはり教員のFDや外国人教員の増加が必要である。

 英語のコースを増やすことと、日本語を行わなくて良いということは同義ではない。全体のトーンとしては日本にいてもらう人をなるべく増やそうということであるので、日本語は最重要である。

 こういったコースが日本で生まれ育った学生にどういった影響を及ぼすか、といった話はないが、いかにも唐突な話を聞かされたという印象が伝わってこないだろうか。
 しかし、この話が冒頭の2つの文書につながってゆく。

 結局、この「グローバル30」の目玉である英語コースは、よく練られて誕生したもの、というよりは、自分たちだけでエリートを相互自認している人たちの間で作り上げられた妄想の産物と評する方が妥当だ。

 恐ろしいのは、こうした、「エリートを自認する人」であるだとか、(一般的だと称する)特殊な経済理論を信仰する人たちが集まると、彼らが客観的に見れば極端にばかげたことを、いかにも冷静な風で語っていても、それがばかげたものであると自覚できないことだ。これは、集団心理学ではよく指摘されることだが、「敵」を勝手に作り上げた状態での集団分極化の一例だろう。
 教育再生会議第7回の中嶋嶺雄氏(アキタ・インターナショナル・ユニヴァーシティ、日本語訳はなぜか「国際教養大学」)の言を引こう。

 今日は、実に画期的な会議だと本当に感銘しました。
 私も長い間大学に関係し、国立大学、国立大学協会にも関係してきたんですけれども、結局大学の中からの改革ができなかったということだと思います。
 そのために、きょう5つの団体及び野依座長の教育再生会議が期せずして同じ方向を目指して本格的な教育改革、大学・大学院改革の提言をされたということは、大変画期的なことでありまして、こんなことは今までなかったことだと思います。
  したがって、今の5つの団体の御提言と教育再生会議の提言を合わせて本格的な改革の具体的なプランをぜひスタートさせていただきたいと、以上です。 

 どうも、思慮のある人間が取り合わなかったから、自分が空想するような意味での「大学の中からの改革ができなかった」ということがわからない者も、お仲間を得ると、それだけで自分の意見の正しさが証明されたと思い込むらしい。特殊な、小さいサークルでの「みんなの意見は案外正しい」ですか?

 繰り返すが、「グローバル30」はよく練られて出てきた作戦ではない。

 このようなものに付き合わされる関係者(むろん、学生・留学生・家族含む)は大変である。

つづく。

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