文科省などが主導するグローバル30とはなにか(4, 教職員・大学院生への影響編)
MEXT's 'Global 30', What is this? (4)
シリーズも第4回目である。
本題に進む前に、本日(2009年7月3日)、文科省から採択された大学、そして例の「海外大学共同利用事務所」8箇所がアナウンスされたのでそれに軽く触れておこう。しかし、後者にあたってしまった大学についてはご愁傷様というよりほかない。
「文科省の平成21年度国際化拠点整備事業(グローバル30)の採択拠点の決定について」
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/21/07/1280880.htm
採択された大学;
東北大学 筑波大学 東京大学 名古屋大学 京都大学 大阪大学
九州大学 (以上、国公立大学、以下、私立大学)
慶應義塾大学 上智大学 明治大学 早稲田大学 同志社大学 立命館大学
「国公立」「地域」のバランスは取れているものの、合計13校で、12校ではない。邪推になるが、ひょっとすると、辞退問題がからんでいるのか?国立は結局ほぼ旧帝大と同じ(留学生数の多い方から採択しても同じ)で、私立は一つしか落としていない。「常識的」な選考になっている。
さて、今回は教職員・教員を目指す大学院生に対する影響をとりあげる。
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このシリーズの全体の目次(第1回)
参考サイト(日本学術振興会、ここから公募要領、Q&Aといった資料を見ることができる。)
http://www.jsps.go.jp/j-kokusaika/index.html
その前に、1回目のおさらいをしておこう。
グローバル30は、採択された大学に5年間のカネがわたるものの、一方で、義務を負う。義務の中には、学部・大学院での英語で学位を取ることのできるコースの新設や、留学生数をかなり増加させることなどが含まれている。
義務の方は、5年が過ぎたら「はい、おしまい」というわけにはいかない。留学生数については少なくとも文科省の監視が2020年までは続く。また、一旦新学部や学科を始めたら、簡単に止めるわけにいかないのはこの業界の性格からして仕方ないことだ。
したがって、一度グローバル30に対応したスタイルにしてしまったら、補助金が打ち切られた後でも、ある程度それをやり続けなければならない。
では、話を戻そう。職員については、要求されているところでは、外国人教員や留学生に対応できるようにせよ、ということだ。特定の外国語に強い職員の採用や、現在の職員に研修があるかもしれない。ただでさえ仕事が忙しくなっている折、困惑している職員も多いだろう。またグローバル30終了後どうするのか、という問題がある。
大きな問題があるのはやはり教員のほうだ。
公募要領や、Q&Aによると、英語コースには、(新規教員が必要なら)基本的には「外国人教員」を国際公募で採用しなければならず(帰化した外国人でも可)、さらには英語コースとは関係なく、日本人を今後雇う際には「国際的な」人材であることが「強く推奨」されているのだ。後の件は、Q&Aだけを読んでいると、日本人教員が「国際的」である必要があるのは英語コースだけだと読めてしまうので注意が必要だ。
更に、英語コースの実施に必要な教員を確保すること。特に、新たに設置する、又は既存の英語コースにおいては、既存の外国人教員を配置するか、又は海外から優秀な外国人教員を原則として国際公募により招聘に努めること。(公募要領p.3、「英語による授業のみで学位を取得できるコースの設置 」パート)
海外において通算して1年以上教育研究に従事した、または国外で学位を取得した日本人教員の雇用の促進が計画に盛り込まれていること。(公募要領p.4、「拠点大学の国際化 」パート)(*)
ということは、グローバル30に採択された場合には、英語コースになんら関連ない学部・学科・コースであっても、「国際的」な日本人教員の雇用を促進しなければならないわけである。
ちょっと意外に思われるかもしれないが、グローバル30の補助金を使っては、素直に公募要領を読めば、常勤の教職員を雇うことはできない。それは、公募要領の「別添1」にある「経費の使途可能範囲」の「人件費」の部分を読めばわかる。そこには、こうある。
2 雇用等経費
本補助事業を遂行するために必要となる者(大学等の教職員を除く。)を雇用等する場合の給与等に使用することができます。例えば、本補助事業において実施する英語による授業を担当するために採用した外国人教員の給与、住居手当等の諸手当、留学生が外国人教員とのコミュニケーションや、留学生への就職支援に専任の事務職員の採用に必要な賃金・手当等が挙げられます。(強調ほよっ)
「大学等の教職員を除く」。これから読み取れることは、補助の対象になるのはまさに、最長5年間の有期雇用の教職員だ、ということだ。
ということは、文科省側としては、「目玉」であるはずの「英語コース」はむしろどうでもよく、あえて言えば5年たったら放り出しても構わないようにも読める(先に言ったように、大学は、一旦はじめた事業を放り出すのは困難だが)。
それより、前回取り上げた留学生数および外国人教員の「達成目標」、および、雇用する日本人教員の「国際化」の方がむしろ「本丸」のように見える。
その考え方を補強するように、「Q&A追補版」(p.1)では、英語コースの設置は補助対象になる最終年次(5年目)にしてもよい、としているのだ。ちょっと、笑ってしまう。
実際のところ、一種パイロット・プロジェクトのような形で「英語コース」があるよりも、大学全体が「英語コース」でありうる方が、「国際的」な気がしないだろうか。
たぶん、そういった思惑があるのだろう。今回の英語コースにはわざわざこういう断り書きがある。(Q&A追補版、p.1)
Q2-5英語コースの学生は留学生のみでなければならないのか。日本人を受け入れることは認められないのか。
A.留学生と合わせて、日本人学生を入学させることも可能です。ただし、日本人のみを対象とする英語コースについては、留学生を受け入れるための環境を整備するとの本事業の趣旨に鑑み、適当とはいえません。
いかにも、隔離されたコースという感じが漂わないだろうか。このタイプの学科ならすでに日本にもあるわけだ。しかし、それをもって「国際化」というには、やや物足りないだろう。
私は、短期留学を大きな規模で募集するとか、とりわけサマーコースを実施すれば(かつ、低廉に宿舎を提供できれば)、結構世界各地から日本に留学生が来る可能性はあると思っている。しかし、それと、「学位が取れる」というような、4年であるだとか2年とかいった長期の留学は分けて考える必要があると考える。おそらく、そういったヘヴィーな留学生を世界各地から「かき集める」のは限界があるだろう。ヘヴィーな留学は、従来同様、アジア各地からの人に限られる可能性のほうがよりありそうだ。そして、アジア各地の人でも、英語を使いこなす人もいれば、かえって日本語を選好する人もいるに違いない。なぜなら、漢字がわかる人も多いということもあるし、その後のキャリアを考えた場合、日本語をマスターした方が有利だということもあるからだ。
そして、まさにその「限界がある」方をターゲットにしているのがこの「英語コース」なのだから、これをものすごく強化すれば「留学生30万人計画」が達成される、と考える人はまず、いないだろう。
ただその英語コースのために、まず、既存学部・学科の外国人教員が引き抜かれる可能性がある。次に、その「穴」や、(先に指摘したように)それ以外についても教員補充は、外国人か、「国際化」した日本人である、ということになりかねない。なりかねない、という表現を使う理由はすぐ後に述べる。
その、「国際化」した日本人教員だが、「Q&A増補版」では、先の「公募要領」p.4(*)の「海外において通算して1年以上教育研究に従事」は、留学でも構わない、となっている。(p.3)
「留学」というのは通常、「研究」だから当たり前ではあるが、「要領」の記述を「教育」と「研究」がセットだと読むと、海外で「教育」をした実績があることが必要なわけで、これは、あまりにも非現実的だ。たぶん、合州国の教員も「1年間以上国外で教育」した人の比率はそれほどないだろう。しかし、公募要領を書いていた人は、そうしたイメイジを持っていた可能性も否定できない。
話を戻すと、今後の教員補充は、上のような、さらなる要求を課されることになりかねない。
1年間の国外留学というと、さほど高くないハードルのような気がするが、必ずしも多くの大学で、常勤教員が1年間の留学ができるとは限らない。彼らは、「グローバル30」に採択されたような「国際化された」大学には今後移転が困難になる可能性がある。また、(あくまで今回)「グローバル30」に採用されたような大学に直接就職する大学院生はさほどいないかもしれないが、その後の展開(つまり、ある大学に就職して、次に移転する、といったこと)を考えるなら、「1年間の留学」を院生のうちにクリアしておこう、といったことにもなりかねない。それでなくても、大学院を強化する、あるいは強化したせいで、大学院生にかかっている負担が極端に大きくなっている状況で、さらに、何かを課すことが許されるだろうか。
そもそも、研究ジャンルによっては、国外留学など時間と労力とカネの無駄、といったこともあるだろう。
さらに、大学という「企業」が抱える経営上の性格がある。どの企業も、人件費削減は利益を上げるための最も効率的な方法の一つである。したがって、大学も職員の削減にこれ努めて経営を行っている、と理解されているかもしれないが、それだけではない。例えば、最近販売されている食品を手に取ったときに、量が少なくなっている、と感じることがあるかもしれないが、実際のところ、同様に、少なくとも一部の大学では、気づかれないように教育サービスの「量を減らして」いるのだ。
どのように行うかというと、方法は簡単で、教員が移転なり退職した後、教員補充を遅らせるのである。社会保険料などを含めると、常勤教員を一人雇うには年間800万-1500万円ほどかかる。従って、例えば10学科あったとして、学科あたりひとりずつ、なにやかにやと難癖をつけて教員補充をしなければ、それだけで1億円ほど儲かる、というビジネスなのだ。
サービスを受ける学生の方は、さほどそのようなことに頓着しないし、場合によっては非常勤講師や、既存の常勤教員がカヴァーしているから、全くわからない。非常勤講師のほうが高度な教育サービスを提供する可能性もあるが、一般には常勤教員はその他のサービスも行っているので、全体として大方、サービス水準は低下しているといえるだろう。
そういったわけで、「グローバル30」は、経営陣に教員採用の際の新たな「難癖」の格好のネタを提供することになりかねない。まあ、それは経営陣の良心にかかっているわけだが、そうした個人の資質に大いに依存してしまう、ということはやはり危険である。
確かに、「グローバル30」に採択された大学は、日本を代表する大学かもしれないが、それだけにむしろ、そこには大いに危惧されるものがあるのだ。
つづく。
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