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2009.07.01

日本最長の「地方鉄道」に見る税金の誤用-ばかげた補正予算に14兆円など使わず本当に重要なところに使え-
Misuse of the Govermental Budget, Misunderstanding the Society, Lesson from Hisatsu Orange Railway

 結構「富士・はやぶさ」の記事は読まれているようなので(感謝)、第三弾を書く。

 前の記事;
「九州寝台富士・はやぶさの早すぎる死」(2009.2.8)
「なぜ「はやぶさ」「ふじ」(九州寝台)の廃止に反対しないのか?「国鉄改革」の失敗」(2009.1.13)

 日本で最も長い「地方鉄道」(大手、準大手や都市部の公共交通を除いた鉄道)で、最も長い路線を持つ鉄道をご存知だろうか。

 「肥薩おれんじ鉄道」という。2002年10月に設立された会社である。路線図を鉄道会社のサイトで見ることができる。

http://www.hs-orange.com/rosen/rosenzu.pdf

 熊本八代、鹿児島川内(せんだい)間116.9km。これは、北近畿タンゴ鉄道の114.0km、土佐くろしお鉄道の109.3kmを抑えて最長だ。国土交通省の「地方鉄道事業者一覧(92社)平成21年1月1日現在」参照。第三セクター鉄道でも当然最長となる。

http://www.mlit.go.jp/common/000036869.pdf

 その出自はというと、旧国鉄の鹿児島本線である。九州新幹線の新八代-鹿児島間の開業に合わせてJR九州から切り離されたものだ。もちろん、この背景には、新幹線が開業した「並行在来線」については経営を切り離すという「整備新幹線着工等についての政府・与党申合せ」という、1990年に合意された化石のようなものがある。思えば、当時はまだ世の中に「国鉄分割民営化バンザイ」といったユーフォリア(多幸症)があった時代だった。(いまでもそう思い込んでいる人が多いと思うが)

 この会社の成立(JRからの切り離し)によって、寝台特急「はやぶさ」「なは」は鹿児島まで行くことができなくなり、熊本どまりを余儀なくされることになった。「なは」は、当初のネーミングの意図が「沖縄まで行く」というものだったようだから、それは挫かれたわけだ。

 ところで、その昨年度の経営実績が2009年6月30日に発表された。

・・・2009年3月期の営業収益は、前の期比20%増の9億5800万円。運賃収入は2・8%減ったが、自治体から踏み切りなどの受託工事が増えた。最終損益は1億2500万円の赤字(前の期は1億5400万円の赤字)。燃油や災害復旧などで鉄道事業の損失は増えたが、鹿児島県から5600万円の補助金を受けた。 (日本経済新聞 九州地方面)

 これで、累積赤字は8億円を超えたことになる。(2009年7月1日 西日本新聞 http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/105805)

 毎年、1-2億円の赤字を「垂れ流して」いる計算だが、何年も前にその数字を見て、私はむしろ、桁が少ないのではないかと思った。2億円の赤字だとして、路線距離から計算すると、1kmあたり、1日あたりの赤字は4,700円でしかない。
 この路線はなんと言っても幹線で、日本の国道が1号線、2号線、3号線と東京からいけば鹿児島に着くのと同様に、東海道本線、山陽本線、鹿児島本線といけば鹿児島に着くのと同じような意味を持っていたもののはずなのだ。それを、たった年1-2億円の追加支出でそのまま使えるのである。

 ついでに言っておけば、今の肥薩おれんじ鉄道ルートが開業する前は、人吉、吉松周りの現肥薩線が「鹿児島本線」だった(と聞いている、熊本-人吉間には蒸気機関車牽引列車が観光用に運行される)。わざわざ無理をして作ったものを、JRや国はドブに捨てるように放棄したのだ。その結果、不要な苦しみを国民が味わうことになった。

 私がなにより主張したいのは、ネットワークにはネットワークの経済があるということだ。

 当時はまだ、経済学でもネットワークについてはあまり研究されていなかったか、あまり日本では知られていなかったのだろう。激情に駆られて、わざわざ一体経営のものを分割するという無用なことをしてしまった。日本のような大規模国鉄の「分割・民営化」なるアイディアは当時どこにもない無謀かつ呆れるようなものだったが(そして、その後も知る限り、同じスタイルの「改革」は、主要国ではどこも真似していない)、あえていえば、その特性を無視して米国のベル電話会社を参考にしたのかもしれない(成り立ちからして全然違うのだけれども)

 そして、悪質なことに、自らに論功行賞をしたつもりか、儲かることが最初から確実な本島の3つの会社には、「分割・民営化」を進めた、ある意味では暴力的とも言ってよい国鉄内の一部過激中間層が経営陣として就任した。加えて彼らは、国鉄を解体させただけでは飽き足らず、さまざまな審議会などに口を出しては日本全体もまた崩壊させようと様々な活動をしてきた。

 話が脱線したが、国鉄改革の際に、国は路線をできるだけ一体経営させるように強制しなければならなかったのである。それが、彼ら(JR経営陣)は全く自分たちの会社だから好きなようにできるといったような思い違いをしているのだ。そして、新幹線について言えばそれを後押ししたのが先の「合意」である。

 もっと具体的な話をしよう。たとえば八代なり川内なりを越えると、それだけでカネも時間も余計にかかるように当然なった。そして、現在、その弊害を取り除くべく、おれんじ鉄道側から熊本なり鹿児島なりに乗り入れを行っているが、JR側はそれに対して極めて冷淡である。

 例えば、2008年04月27日付け毎日新聞佐賀版にはこうある。

 今年もツバメが巣をつくった阿久根駅の待合室は、土曜の朝、中高年の女性ら約30人で込み合う。午前8時2分に同駅を始発する快速「オーシャンライナーさつま」の客たちだ。
快速は川内から鹿児島線に乗り入れ、終点の鹿児島中央駅へは約1時間半。乗り継ぎがなく人気だが、JR九州が乗り入れに消極的なため、土、日、祝日の1日2往復しか走らない。

 その「理由」として、八代以北、川内以南はJRの運行で「混んでいる」ということや、かつて電車が走っていた現おれんじ鉄道部分は気動車に置き換えられ、JRの車両に比べ低速であることがあるのかもしれない(なお、架線設備は残っている)。

 しかし、九州新幹線は、新八代から鹿児島まで開通したはずで、川内どまりではないはずだ。なぜ、鹿児島-川内間は並行在来線が切り離されなかったのだろうか。

 それは、単純化して言えば、JRにとってそのほうが儲かるからだ(前いったように、ネットワークの経済が働くので、ある路線だけの収支だけを考えるわけにはいかない)。つまり、JRは、「並行在来線切り離しの原則」を都合のよいときには破ったのである。

 これでは、おれんじ鉄道側としてはたまらない。儲かりそうな路線はわざわざ除いた部分だけを押し付けられたのである。儲からないのは経営努力が足りないからだ、というようなおきまりのお説教を沿線では国から聞かされているようだが、そもそも間違った戦略を戦術で取り返すのは困難であるということは常識だ。
 先の毎日新聞では、阿久根の商店会の会長さん(若松光志さん)の言葉が紹介されている。

 「『博多が近くなる』『新幹線効果は全県に及ぶ』なんて触れ込みはうそだった」。
 新幹線には反対だったが、開業後は月1回の太鼓演奏や朝市などで誘客を試みた。だが、1年間続けて無駄だと悟り、やめた。「したり顔で『活用は地域の努力次第』とか言う国や県の役人の無責任が許せない」と、何度もレジ机をこづく。・・・(略)・・・
 若松さんは言う。「商売を知らない人間に、活用などと言って欲しくない。新幹線が止まらない駅に効果が波及するなんて幻想ですよ」

 国は、「がんばる地方応援プログラム」(総務省)として737万円を出しているが、これでどうにかなるというものでは全くないだろう。http://www.soumu.go.jp/ganbaru/project/h20pdf/46_1.pdf

 そして、利用者としても不便を押し付けられたのはそうで、先に述べたカネや時間の話のほかにも、八代以北や川内以南と、列車の運行密度にはかなりの差がある。JRが一体で経営していれば、これほどのことにはならなかったろう。それどころか、かつての鹿児島本線は、頻繁にゆききする特急のせいで普通列車が交換のために停車する時間がかなりとられていた。それがなくなったので、かなり利便性が向上する可能性もあったはずだ。

 つまり、肥薩おれんじ鉄道(の路線部分)は、まず「分割民営化」なる「民営化はすばらしい」との幻想を振りまくための「分割」(経済学で言うところのクリーム・スキミング(いいとこどりといった意味)そのものだ)の犠牲となったJR九州の元で、さらにもうひとつのクリーム・スキミングである「政府・与党申合せ」の犠牲になったのである。しかも、重ねてさらに、もうひとつのクリーム・スキミングである悪質な経営判断で路線を制限されたのである。(もっとも、川内以南の住人は、おれんじ鉄道よりもJRでよかったとつくづく思っているだろう)

 もう一度、整理して考えよう。

 JR九州は、本島会社と異なり、政府(国)が株を持っている会社である。そして、その会社(JR九州)が八代から川内を切り離し、その部分は熊本県や鹿児島県、JR貨物といった株主を持つ会社(肥薩おれんじ鉄道)に移行した。

 大きく見れば、なんのことはない、政府内部での経営の押し付け合いなのである。

 そして、国としてみれば、自分の保有する会社に儲けさせ、地方自治体に負担を押し付けた格好だ。

 ばかばかしいたらありゃしない。全く不要な分割(これはJRからおれんじ鉄道に分けたこと)をして、結局国民全体の負担としては大きくなっているだけだ(経済学的に多分そうだ)。

 構造的には、例の三位一体の改革と酷似している。

 このようなところに税金投入をするほうが、後で述べるようなくだらない使い方とは比較にならないほど費用対効果のあることだと思うが、最も望ましい改革は、ここのタイトルで書いたような年ごとの税金投入ではなく、経営の再一体化である。国が資本を注入すれば、国はJR九州の株主でもあるわけだから(一種の持ち株会社として)それは可能だ。ちなみに、おれんじ鉄道の資本金は15億6000万円である。

 実は、この八代-川内間は有数の風光明媚な路線なのだ。八代海(不知火海)にまさに「沿って」走るのは大変すばらしい体験で、また一転して東シナ海を望みながら走るのもすばらしいの一言だ。
 九州寝台では、瀬戸内海を望んで走るのと同様、いや勝る、優れた区間だったといえよう。

 JRだったころは、通しで熊本、鹿児島を行けば、寝台でなくともそれを楽しむことができたが、いまや不可能ではないにせよ、面倒なことになってしまった。

 (移動について)国が豊かになるということは、移動を単にすばやくできるということとはちょっと違う。合理的な範囲で多様な移動方法を選択できる、ということも含まれているのだ。さらに余裕が出てくれば、保存鉄道を楽しむといったこともあるだろう。それと全く反対のことをしてきたのが日本である。
 九州寝台の廃止であるだとか、肥薩おれんじ鉄道への経営移譲というのは、誤った政策のもたらした日本の貧困の表現の一つだ。なんといっても、本島会社は1000億円の単位で利益を上げているのである(そして、その利益の多くは海外に流出している)。当時なすべきことは、適切な経営改善であり、分割民営化という誤ったフレームを被せることではなかったのである。
 全くのところ取り返しがつかない失敗なのであり、この轍を現在まさに郵政が踏んでゆこうとしているわけだ。
 
 最近の補正予算に見られる途方もない財政規律の緩みと、一方でこのようなナンセンスかつ作られた「困窮」を見るにつけ、税金の使わせ方もまた国民が誤っていると考えざるを得ない。「本来であれば解雇したはずの従業員を雇い続ければ給料を補填」とかいった、全くとんでもないバラマキ政策がほとんど批判もなく受け入れられている世の中だ。かつて、貸し渋りの際に中小企業に融資する際でももう少しマシな反応があったように記憶している。

 われわれは、政府に経済社会についての考え方、税金の使い方をかなり変えさせる必要がある。というより、きちんとした民主主義を確立すべきだ。

 ついでに言っておけば、こうした地方路線についてマスコミがよく言及するのは「地元の高校生の通学」あるいは「高齢者」である。あたかも彼ら以外には関係ないかことであるかのごとくだ。それは、寝台列車に「哀愁」「ノスタルジー」という冠が被せられたのと同様である。こういった妙なステレオタイプはやめてもらいたい。それ以外の利用者もいるし、そもそも寝台列車に「ノスタルジー」で乗る、というのは、ちょっと前までそちらのほうが(たぶん)少数派だったのだ。

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