今、ドイツの百貨店業界は大変な転換期にさしかかっている。(なお、以下の記事は今まで書いた中でも大変ややこしいので注意、面倒なら「*」(←ここをクリック)まで飛んでください)
われわれは、公式見解で、旧東独市民は西側の豊かな生活に憧れ、その情念が旧計画経済ブロックの崩壊の一因になったと聞かされている。そして、それはそれほど間違いでもないだろう。(一部の日本の変な経済学者は、いまだに、当時ブランデンブルク門で東から西を見て、「自由が見えた」などといっているわけだが。妄想を持たない人には、壁か、ジーゲスゾイレか、ティーァガルテンの森しか見えなかっただろう)
ところが、その「西側の豊かな生活」の象徴とされた、豊富に商品の並ぶ百貨店―これが、いまや大きな転換期を迎えているのだ。
その内容というと、やはり「経営統合」「廃業」である。日本の百貨店業界(伊勢丹、三越、高島屋、松坂屋、大丸などなど)とその点では変わらないのだが、もっとはるかにドラスティックである。
まず、おさらいをしておくと、ベルリンに限ってみると、最近までベルリンには「百貨店」と呼べる存在として「屋号」ではカールシュタット(Karstadt)、ヘルティー(Hertie)、カウフホフ(Kaufhof)、ウールワース(woolworth)、ヴェルトハイム(Wertheim)の5つがあった。このうち、ウールワースは小型の百貨店である。
ウールワースは、いわずと知れた合州国起源の会社である。合州国における、あの圧倒的なウールワース・ビルを想起される人もいるだろう。(たとえば、http://www.nyc-architecture.com/SCC/SCC019.htm) 合州国ではすでにだいぶ前に百貨店としてのウールワースは消滅し、やや前に、英国ウールワースも倒産した。ただ、その時には、ドイツのウールワースとは資本関係が異なるのでドイツは安泰だ、とされていた。
しかし、昨年末、ベルリン・シュテークリッツの(シュロスシュトラーセの)ウールワース取り壊し(この物件は投資会社に販売された?)に伴い、そのファサードが道路に倒壊するという椿事があった。こういったことはなにかの引き金になるのだろうか?
ドイツのウールワースも4月半ばに手元資金の枯渇から倒産してしまったのである。やや小型の百貨店ながら、比較的良質の製品を安価で提供していただけに残念でならない(もっとも、woolworthは、そのほかの企業と比べ、まだ前途があるとされる)。ただ、商品陳列に問題があったせいか(そこそこの割合のドイツの商店はそうだ)、日本人にはあまり良品安価と考えられないかもしれない。
時間は前後するが、ヴェルトハイムについて取り上げよう。この会社は、すでにカールシュタットによって買収されていた。ベルリンに残る最後のヴェルトハイム(やはりシュロスシュトラーセ)も、2009年3月をもって閉店した。その隣に、カールシュタット本体が建設されており、閉店したヴェルトハイムは「ブールバール・ベルリン」という大型ショッピングセンターにかわる予定だった。
ということで、すでにカールシュタットの一部になっていたヴェルトハイムも、その屋号すら消滅してしまったのである。
そして、ヘルティー。これも、一時期カールシュタット(ちなみに、現在、カールシュタットを持つ会社がアルカンドール(Arcandor)である)傘下に入っていたが、その後、別の投資会社に売却されていた。そして、その投資会社はやや前にヘルティーを廃業し、不動産を売却するなどして資産回収をする意向を明らかにしていた。そして、5月半ばごろ、最終的にヘルティーの前途は絶たれた。
ちなみに、「ヘルティー」という名前は相当の歴史(三越のように長い歴史というわけではないが)をもつものである。あのカーデーヴェーにもかかわった。
カーデーヴェー(KaDeWe)については上にあげなかったが(単館だし)、いうまでもなくベルリン・ヴィッテンベルガープラッツ(Wittenbergerplatz)にある超巨大百貨店である。(公式サイトhttp://www.kadewe.de/)圧倒されるのは、上の階にある食料品売り場である。日本人の観光客もよく訪れるところだ。
1989年あたりの「変化の時」あたりには、この百貨店にはわんさと東独市民が押し寄せたとされた。もっとも、現実に品物が買われていたのはアルディ(Aldi)、プルス(Plus)のような安売り店であったとの報告もあるが・・・ちなみに、この報告は、こうした百貨店のその後の展開を予感するものであったかもしれない。
KaDeWeにとっての、woolworthのファサードの倒壊事件にあたるものは、2009年1月に発生したドロボウ事件かもしれない。宝飾コーナーがターゲットになったこの事件は、直後に「犯人」(?)が逮捕されたにもかかわらず、証拠不十分でその後、彼らは釈放された。
しかし、このカーデーヴェーも、とっくにカールシュタットの(あるいは親会社アルカンドールの)所有下にあった。
したがって、2009年5月中旬あたりで、先に言った5つの百貨店の名前、あるいはカーデーヴェーも含めて6つの百貨店は、事実上2つにしぼられていたのである。カールシュタットとカウフホフに。
ベルリンのカウフホフは、旧西地区にはない。かつての東ベルリンの百貨店のみを買収したのだ(知る限り)。有名なのは、アレキサンダープラッツのカウフホフだろう。日本人観光客にとってアレキサンダープラッツは観光ルートのひとつだから、見物した人も多いに違いない。現在は、夜遅くまで営業している。これらは、旧ドイツの百貨店チェーン(?)セントルゥム・ヴァーレンハウス(Centrum Warenhaus)が変貌したものだ。旧東ドイツ、つまり計画経済体制では多くの小売店がよく品切れを起こしたとされるが、少なくとも、ここでは品切れ問題はあまり発生しなかったという。問題は、西側で起こった消費社会化の流れに全くついてゆけなかったことだ。このセントルム・ヴァーレンハウスは旧東独にいくつかあったが、それらのいくつかは、今まで挙げたのとは別の、昔からある百貨店チェーンであるホルテン(Horten)に起源がある。ただし、西側のホルテンは、カウフホフにすでに買収されている。
(*) ということで、ベルリンの百貨店状況にさらにおさらいをすると、かつてはそれなりにさまざまな種類があった百貨店が、旧東にある(西側企業の)カウフホフ((上の企業)メトロ)と、旧西にある(もちろん西側企業の)カールシュタット((上の企業)アルカンドール、アルカンドーア)の2つしかなくなってしまったのである。
これで話は終わりではなかった。
なんと、カールシュタットとカウフホフの統合話が持ち上がったのである。
カールシュタットは経営が苦しいらしく、政府に資金援助を求めるありさまである(だったら、ヴェルトハイムをつぶすなと言いたいが)。米ジェネラル・モーターズ(GM)傘下の自動車メーカー、オペル(Opel)について騒ぎが起こっているが、カールシュタットが「参入」したわけだ。しかし、ドイツ国民の目は厳しい。2009.5.29のドイツ第一放送(ARD)の調査(http://www.tagesschau.de/multimedia/video/video504880_bcId-_ply-internal_res-ms256_vChoice-video504880.html)によれば、オペルに対して税金投入してもよいと答えたドイツ国民が53%(これでもややあがった数字だ)に対して、カールシュタットについては29%しかない(ほおっておくが63%)。
政府資金の導入には条件があることと、オペルの場合には、より米国の親会社GMの経営状況に左右されているという部分が大きいとは思われるが、それにしてもカールシュタットについては厳しい。
その救済話を別にしても、統合の話はあるようだ。
南ドイツ新聞http://www.sueddeutsche.de/wirtschaft/355/469907/text/(2ページあり)によれば、カウフホフ(メトログループ)のシェフ、ロブロ・マンダック(Lovro Mandac)氏は、カールシュタットと統合したら多くの既存店舗が閉鎖に追い込まれるのではないかという文脈で、仮にベルリンのカールシュタットをカウフホフが運営するとなると、ベルリンで13の店舗を展開することになるが?、という南ドイツ新聞側の質問に対して、ベルリンは統合することが(店舗の)現在の立地に必ずしも影響をもたらさないよい例だ、百貨店のサービスエリアがあまり重ならないので、全ての現在の(店舗)立地が将来にも(そのまま)あるだろう、と語っている。
それはそうかもしれない。しかし、これは、ベルリンにおける「ザトゥルン(Satrun)」と「メディアマルクト(MediaMarkt)」の「2大家電量販店」の競争のようなものではないだろうか。というのは、2つは、あたかも異なる店舗のようでありながら、実は、共にメトログループに属しているのである。したがって、消費者は、2つの店の間で選択をしているようで、実は、さほど真剣な選択にはなっていないのだ。
日本にたとえていえば、ヨドバシカメラとさくらやが競争をしているようで、あるいは、コジマとヤマダ電器が競争をしているようで、その実資本系列は同じだった(実際にはそうではないが)、というようなものである。日本の百貨店系列も相当程度整理されたが、ここまではいっていない。
なぜ、こんなことになってしまったのか。計画経済から資本主義経済への移行は、無条件に「選択の自由」を保障してくれるのではなかったろうか。(念のために言っておくと、私は計画経済というアイディアは原則的に好まない)
ひとつの回答は、南ドイツ新聞の記事である。http://www.sueddeutsche.de/wirtschaft/431/465024/text/これよれば、いくつかの理由があるが、そのひとつとして、ディスカウンターや専門店の間で「粉々にされた」という理由が挙げられている。金融・経済危機はその契機にしか過ぎないというわけだ。
出所を記録しておかなかったので、ここで提示できないのが残念だが、このことは、このところの中間階層の没落、したがって、上層と下層に消費の指向が分裂したことと関係があるとの指摘もあった。日本と同じかもしれない。
それはそれで正しい分析だろう。ただ、追加的にひとつだけあげておく。資本主義経済下では、あるビジネスのジャンルが固定したとたん、自由競争の条件下では、限りなくひとつの企業に供給元が絞られる傾向があるのだ。とりわけ、成長が終了したとされる分野においては。それがよいとか悪いとかではなく。そうしたことを知っていれば、特にこういった極端な事例-ドイツ国内で事実上百貨店がひとつになるという-にも驚き騒ぐこともないだろう。ただ、西側に吸収されることで、ステキな消費生活を満喫でき、「選択の自由」を味わうことのできることを夢見た(?)旧東ドイツ国民についてはご愁傷様というしかないが・・・程度の差はものすごくあるだろうが、結局は百貨店として「セントルゥム・ヴァーレンハウス」しかなかった時代への逆戻りともいえる。
ところで、カールシュタットとカウフホフが統合した後の、もうほとんどドイツ国内にそれ以外の百貨店がない百貨店グループの「上の会社」の名前の案はどうなっているのだろうか。
Deutsche Warenhaus AG(ドイツ百貨店株式会社)という案が報じられている。
妄想が現実に、なのかもしれない。
続報記事「カールシュタット、トーマスクック、アルカンドーア」
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