イランからのクリスマス・メッセージ Pres. Ahmadinejad Christmas Message
やや、遅きに失してはいるものの、クリスマスを善き日として祝っている、あるいは(信者としてではないものの)共感している人に対して、わたしもおめでとうございます、と申し上げる。
こういうことをいうと、かえってつまらない、といわれそうだが、別に私はキリスト教徒でもない。しかし、なにかを信じている人が、関連するイベントに情熱を傾けているときに、それを無碍に否定する気にもならない。宗教のもつ力は大きいのだろう。その前で、私も、どんな宗教であれ、一定程度は敬虔になる(そういった宗教感情を尊重する)。
今年のクリスマスで騒がれたことのひとつは、イランのアフマディネジャド大統領のクリスマスメッセージを、わざわざイギリスのチャンネル4が放映したことだ。
アフマディネジャドがイエスの誕生日にアブラハムの信徒にお祝いを(ガーディアン)
http://www.guardian.co.uk/world/2008/dec/25/ahmadinejad-christmas-message
政府がチャンネル4をアフマディネジャドのクリスマス・メッセージの件で酷評(同上)
http://www.guardian.co.uk/media/2008/dec/25/channel4-iran
アフマディネジャドがクリスマススピーチを行う(南ドイツ新聞)
http://www.sueddeutsche.de/politik/925/452627/text/
お祭りへのプロパガンダ(同上)
http://www.sueddeutsche.de/politik/965/452667/text/
ある程度のことは、上記記事を読めばわかるが、これだけでは、いったい、なにが問題なのか、といぶかしく思う向きも多いだろう。
実際のところ、私も、なにが問題で大騒ぎをしているのか、いまひとつ解せないところがある。
整理して考えると、4つの点があげられる。
1. エリザベス女王の話す内容を放映する「はず」の時間に、外国のトップの話を放映した
2. 話の内容に問題があった
3. 話した人物に問題があった
4. 話をした人物の所属する国に問題があった
まず、「1」は、そうではなさそうだ。この、UKの放送局チャンネル4は、もう何年にもわたって女王以外の人物のメッセージをクリスマスに放映し続けている。ただ、放映時間をずらすといった変更があったようだ。
とすると、ありそうなのは2,3,4である。2を後回しにして、3から考えてみることにしよう。
我々は、アフマデネジャド氏についてはほとんど知らない。ただし、なにやら論争を巻き起こしていることは知っている。彼が、単にテヘラン市長であったなら、どんな個性の人物であろうが、他の国からとやかく言われることもなかっただろう。これは、コメディアンをロンドン市長に選んでしまう国民の「心性」と比較すると面白いかもしれない。もっとも、この件では世界的に騒ぎを引き起こしたわけだが、我ら日本国に次々と誕生したエキセントリックすぎる首長については、一部の国を別として、世界的にはほとんど全く問題にもならなかったが。
記事によれば、彼のホロコースト否定説や、同性愛者の公開処刑といったイラン国内の人権否定的傾向に彼が関与していることが問題とされている。
これらにつき、考え方もいろいろあるだろうが、少なくとも議論を呼ぶような内容であることは間違いない。ただ、それをもってクリスマススピーチが大問題となる、というようなものではないだろう。たとえば、ブッシュ(Jr)氏や、胡氏ならどうなのか。
となると、単にややエキセントリックである、というだけではなく、2とか4の問題があることを考えねばならない。4を考えてみよう。
UKは、とりたてて現在イランとことを構えているわけではない。しかし、最近、ペルシア湾で英国がイランに対してスパイ活動を行っていた事実が明らかになったように、敵視政策を続けていると考えられる。これに対し、もちろん、イランが英国近海でスパイ活動をおこなっているなどといったことはない(たぶん)。
米国が、中近東諸国に対するイランの種々の支援(あったとして)を問題視しているが、少なくともイランは正規軍を近隣諸国に展開したり、空爆を行ったりしているわけではないのだ。
この事実を踏まえることは重要である。言葉はあくまで言葉と受け取っておこう。事実から考えるなら、明らかに侵略国家であったり、殺戮を行っているのは英国の方だ。
先に、同性愛者の公開処刑について書いた。伝えられることから受ける印象は、とてもよくないものだ。当然、批判されるべきである。しかし、それが、「キリスト教転向者に対する死刑制度がある国はなにもいう資格がない」という観点をもとにしているというのはどうか(http://www.sueddeutsche.de/politik/965/452667/text/におけるイスラエル大使ロン・プロゾー氏の発言)(なお、イラン国内にそのような制度があるかどうかは私は知らない。イラン(イラン・イスラム共和国)では、一応宗教の自由がほんのかすかにはある。イスラムのほかにあるのは、アルメニア正教(キルスト教の一派)とゾロアスター教である)。
というのは、ほかならぬイスラエル自身が他国の人間を勝手に公開処刑している国(空爆のこと)であるということは、前々から知られている事実であり、かつ、2008年の年末にもまたまたガザ地区への空爆を行い、大量の人間を(処刑されたかれらがどういうような人生を歩んできたかにかかわらず)「処刑」したのである。
他人のことをあれこれいうヒマがあったなら、自分の国のあり方に目を向けてはどうか。少なくとも、イラン空軍が、イスラエルを空爆などしてはいないのだ。
全体としてみると、そもそも、英国がイランを好んでおらず、そこに強硬派の大統領ということで、より好ましくない状況(プロパガンダには好ましい状況)が生まれており、それが感情的反発になっているのだろう。
英国がイランを好まない理由ははっきりしている。英国の有力な会社にBP(British Petroleum, 英国石油)があるが、この会社はもともと英国のイランにおける利権をバックにしていた。そして、その利権は79年のイラン革命を最後に失われた。英国民の一部が(なぜそのような利権があったのかはともかく)イランを敵視するのもうなずけるというものだ。イラン・イスラム共和国をなんとか打倒し、自らのビジネス環境を整えることはとてもステキなことだ。
というのは、英国の利権が失われたのは79年がはじめて、というわけではなく、すでにイランのモサデグ首相時代に一度、失っているのだ。そして、その後モサデグ氏は失脚し、UKは再び利権を手にすることができたわけだが、その背後に外国勢力があったことは当然視されている。イランにおける、英国の石油資源へのアクセスという、この夢を再び実現しようではないか。女王陛下の国のために。
というような背後事情に目を凝らしてみると、アフマディネジャド氏の個性がどうのこうのとかいったものよりは、とにかく、あのイランのよりによって強硬保守派の大統領、というのがそもそも気に入らないのだろう。英国では、彼は「独裁者」とすらいわれているようだ。彼は少なくとも選挙で選ばれているし、今までのところ選挙制度を改変して「永続政権」にしたというようなことは聞かないし、そもそも、イランでは宗教指導者が権威を持っているので、大統領が独裁者である、ということは全くナンセンスなことだ。
我々日本国民が、このような英国流(あるいは米国流)のそれこそエキセントリックなものの見方に流される必要はないのだ。こうしたプロパガンダを真に受けることが、イランにおける油田に対する日本の権利を失わせることにもなった。その権利は、もちろん、中国のものとなった。
これは、だいぶ前の話ではあったが、そのときも日本政府の対応には相当歯軋りをさせられた。
ということで、やっと「2」の話となる。
アフマディネジャド氏のスピーチの英訳は最初のhttp://www.guardian.co.uk/world/2008/dec/25/ahmadinejad-christmas-message
で読むことができる。
内容的には、先にも述べたように、どこが刺激的なものなのかわかりにくい。しかし、2点ほどは指摘できるだろう。
キリスト教徒にとって、イエスはキリスト=救世主なのだ。旧約聖書の多くの預言者や、ムハンマドとは一線を画す存在なのである(たぶん)。それにもかかわらず、全体のトーンは、イスラム流儀の「歴史」解釈であり、イエスもあまたいる預言者のひとり、ということになっている。これはキリスト教徒には受け入れがたい観点だろう。
(まあ、私には全くどうでもいい話だし、たぶん、これら一神教にかかわりない多くの日本国民にとってもそうだろう)
この点は、報道では明らかにはなってはいないが、たぶん、そうなのだろう。その上に、キリストがいま生きていたらうんぬんが付け加わる。現在の国際経済社会秩序に我慢ならないだろう、というのだ。
もちろん、これは仮定の話なので、憶測でしかない。しかし、新約聖書に多少なりとも知識があれば、全く根拠がないわけでもなく、それもそうかな、と思える話でもある。
イエスは、私兵を募って武力に訴え、自分の理想に邁進するというタイプではあまりなかったと(少なくとも一般的には)される。もしそうなら、とてもではないが、支配層に受け入れられる宗教ではなかったろう。そうではなく、「愛」という要素があったのは事実だ。
ただしかし、それは彼が抗議活動や、抗議運動を全く何もしなかった、ということにはならない。彼は、エルサレムに行ったときに、驚くべきことに、商店の破壊などといった直接行動に出ているのである。聖地が商業主義まみれになっていることに、どうにも我慢ができなかったらしい。
このような記述が聖書にあるから、アフマディネジャド氏の主張には何の根拠もない、とまではいえないと判断してよいだろう。
私がこのような文章を書いた理由のひとつは、実は、言論には言論をもってする、という原則を考えるなら、確かに彼が放映されるスピーチに登場したのは、彼がイランの現大統領であったからだろうけれども、それとは別に、彼の言論をまずは率直に考えるべきである、ということを確認したかったからである。本来「2」が問題になるべきなのに、あまりそうなっていないのだ。
UKがイランに不快感を持っているとか、発言者にエキセントリックなところがあるに違いない、といった部分は、二の次で考えられるべきなのだ。
現イラン大統領がどう考えているか、それを垣間見させてくれたことに、UKのチャンネル4には拍手を送りたい。それに対して、英国政府が不快感を示したなどということは、やや残念に思う。この件は英国に表現や言論の自由があることの証明にはなったが、英国政府には女王とかけ離れた立場の人物のスピーチをテレビ電波で流すことを許容するほどの度量がないことの証明にもなったのだ。
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