書評 アラン・ワイズマン『人類が消えた世界』
Book Review: The World Without Us By Alan Wiseman
遅まきながら、評判の高い、アラン・ワイズマンの『人類が消えた世界』((2008、原著2007)鬼澤忍訳、早川書房、Alan Weisman "The World Without Us")を読んだ。
取り上げられている話題は世界のさまざまな地域にわたっており、ちょっと日本人の著者では書くことができるとは思えない内容だ。NHKあたりならできそうではあるが。そういうわけで、この方面には暗い私にはかなりコストパフォーマンスの高い本だった。
タイトルは、「われわれのいない世界」ということで、『人類が消えた世界』という邦題はそう遠くない。しかし、この書の重点は未来予測をすることにあるわけではない。むしろ、過去・現在において人間がなしてきたこと、なしていることをわれわれに伝えることが中心だ。「専門家」の考えも紹介され、それによって結果的に「われわれのいない世界」を予測する、ということになる。
その「人間がなしてきたこと、なしていること」だが、全体としてみればとても重い気持ちにならざるを得ないだろう。「功罪」という大雑把なくくり方をするのなら、「罪」の方がどうしても重くなってしまう。第一部の末尾は将来、ヒヒがどういう生態系での立場を獲得するか、という問いのようにも読めるが、もちろん、人類が「好奇心に衝き動かされ、ますます強大になるおのれの力に酔いしれ」「自分の身と地球を存亡の危機に立たせ」ているということを指摘しているのだろうから、著者も全体として同じような評価をしているのだろう。
「罪」というといわゆる先進国が、という見方になりがちであるが、決してそうでもないこともわかる。むしろ、人間の性(さが)のようなもので、ただその現れ方が異なる、というものだろう。アフリカの現状のレポートにも暗澹たる気持ちになってしまう。
しかしまた、人類全員が、突如「ラプチャー」(携挙、by レフト・ビハインド)されてしまったら、とんでもないことが起こるということも示されている。現在、われわれの「文明」を成り立たせているものが、かなり長い間続く重荷になっているのだ。典型的には核の問題で、われわれは核の恩恵に現在あずかっているが、しかしまた、これは後世に重いツケを払わせることになるものなのだ。
どうも、人類が行い続けた文明化(とりわけ19世紀以降)というものが、大体において今日的観点から見ると、後先考えない「軽はずみな」ものが多く、しかも、現在行っていることは熟慮されているものばかりである、ともいえないようなのだ。本書では例えば、これは農薬の使用について示されている。
こういった「技術」の問題は、もはや取り返しのつかない状況になっているものもあるようだが、将来は改善されるものもあるかもしれない。しかし、人類の数そのものが、地球に対する強烈な負荷になっていることは明らかだ。
(とりわけ世界的に)周りを見回せば人類が多すぎることは明らかであるが、自分の子供はたくさんほしいという個人的な欲望を抑えることは難しい。日本の人口も明治維新以来数倍になってしまった。本書の末尾には、「子供を一人までに制限したらどうなるか」というシミュレーションがあるが、おそらくはこれぐらいしないと破滅的結果は避けられないだろう。
本書は、生物の持つ生命力を再認識させてもくれるが、「私」であるだとか、「人間」であるだとか、「人類」とかを考える材料を提示してくれる良書だといえよう。
(以上書評;ここからは私の考え;人口の問題について)
地域によって生存率に差があるから、地域ごとに「一人まで」「二人まで」「三人まで」と使い分けることができればよいかもしれないが、現実にはこうした発想はかなりの困難を伴う。というより、たぶん、無理だろう。個人に任せておいても、ひょっとしたら、劇的に世界人口を抑えることができるかもしれないが、そうでなければ、待っているのは人類文明の破滅である(もっとも、人間がいなくなるというわけではないだろうが。ただ、人口は強制的にだいぶ減少するだろう。すでにローマ・クラブ報告以来長年にわたって警告されていることである)。
こうした人口問題を考える場合、本書では控えられているが、やはり宗教の問題は外せないだろう。私は仏教徒ではないが、この点では、シャカや仏教の教えを見直してもよいかもしれない。
2009年7月末現在、民主党などが「子育て手当て」として選挙目当てのバラマキのつもりなのかわからない政策を掲げているが、この政策の真の問題は、財源にあるのではなく、彼らの持っている(持っているとして)ヴィジョンがあいかわらずの右肩上がり(せいぜい現状維持)のアナクロな発想から生まれているということにあるのだ。
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